NIPTは受けないといけない検査ではないし、受けてはいけない検査でもありません。NIPTを受けることが夫婦にとってメリットがあるならNIPTは意味のある検査です。
今回は、2024年1月-2月の期間にクラウドワークスで私が560人に独自アンケートした「NIPT意識調査」を報告したいと思います。
この意識調査を読むと、あらためて自分の価値観を見つめ直すきっかけになります。
NIPT意識調査の対象者
クラウドワークスで10代から40代、性別、妊娠歴を問わずにアンケート調査をしました。
性別と年代
80%以上の方が女性が回答し、35歳以上の人が約55%でした。
妊娠歴とNIPTの認知度
妊娠歴がある人は93%以上の人がNIPTを知っているのに対し、妊娠歴がない人も76%と多くの人がNIPTを知っていました。
2022年以降には、母子手帳をもらうときにNIPTの情報提供が行われるよう各自治体に関連学会から働きかけが行われました。そのため妊婦さんのNIPTの認知度は今後ほぼ100%になると考えられます。
NIPTを受けるかどうか
NIPTは受けるも受けないもご夫婦の自由です。ちなみに受けると考える人と迷うと考える人を含めると、76%以上の人が妊娠後にNIPTを受ける可能性があります。
ダウン症候群など染色体異常のリスクは高年のほど高くなりますが、意外なことに10代が100%、ついで20-24歳が61.4%と若い世代でNIPTを前向きに考えていました。それぞれの理由に関して下記で詳細をまとめました。
NIPTを受けない
NIPTを受けない理由
- 染色体異常が分かった場合、どうするべきか決断できないと思うため
- 検査結果によって、出産するかしないかの迷いというストレスができることが嫌だから
- 産まれる前に分かりたくないから、怖さを感じるので受けたくない
- 胎児がどんな状態であれ、産むという選択肢を選ぶだろうと思うから
- 受けたいとは思いましたが、費用が高額だったため受けませんでした。費用が安かったら受けたと思います。
- 当時なかなか授からなかったので生まれてくる子供を大切にしたいという気持ちの方が強かったため
- 流産リスクが高まると聞いたことがある。
- 出生前診断を受けなくても後々の定期健診で分かる可能性もある
産むことを決めている人は、確かにNIPTは必要がないかもしれません。また、人には「知らない権利」があるので、「生むかどうか決めるのが難しいので自然に任せる(=生まれたら受け入れる)」という選択もあります。
ただ、下記2点に関してはまちがった認識です。
- 流産リスクが高まると聞いたことがある。
- 出生前診断を受けなくても後々の定期健診で分かる可能性もある
NIPTは妊婦さんの採血による検査なので、流産のリスクはまったくありません。また、妊婦健診でダウン症候群の疑いがわかることもありますが、100%ではありません。
私が働いていたクリニックでも、年に1-2人生まれてから初めてダウン症候群と診断された子がいました。
NIPTは絶対受けないといけない検査ではないですが、間違った知識で判断するのは後悔する原因になります。受けると決めていない人も、NIPTが少しでも気になる人は遺伝カウンセリングをおすすめします。
NIPTを受ける
NIPTを受ける理由
- 障がいを持った子供を一生支えることができる環境ではないと思うから
- 第二子は、より金銭面も障害の有無が第一子に影響を与えるので
- 今いる自分の子供ですら育てるのが大変なのに、さらに大変なダウン症やその他異常のある子供を育てられる自信がない
- 今から妊娠となると、高齢出産になるので、リスクは上がると思うから
- もし子供に病気があった時に、自分の経済力で育てていけるか、それとも辞めておくべきか判断できるから
- 早い段階で病気が見つかっていれば産まれた後もサポートしやすくなりますし、病気に向き合う時間も取れるので自分の精神的な所の助けにもなります
- 親族にダウン症の人がいるので、遺伝があるかもしれないので受けたいと思う
- 兄弟に障害者がいて親が苦労しているのをずっと見てきたので、同じようになりたくないから
- 生まれてからわかるより勉強したり親族への説明などの対策ができるからです
NIPTを受ける人には「早くわかることで出産後に備えたい」と考える人と「障害があると育てられない(中絶目的)」と大きく2つのパターンがありました。
アンケートにはなかったですが、実際の現場では「陰性であることを確認して妊娠を安心して過ごしたい」という思いでNIPTを受ける人が多いです。
検査する理由に人それぞれで正解も不正解もありません。ときどきNIPTを受けることに罪悪感を抱く人もいますが、私は遺伝カウンセリングするときに「2人にとってこの検査が安心感につながるならメリットのある検査ですね」とよく伝えています。ご夫婦が検査にメリットを感じるなら赤ちゃんに負担のないNIPTができてよかったなと思っています。
NIPTを受けるか迷う
検査を迷う理由
- 今はパートナーもいないし独身だから、なかなか想像がつかないというのが正直な所だから。実際に妊娠してみないと分からない
- 出産前にリスクがわかるのは色々と準備ができて嬉しいけど、もし疾患があるとわかってしまったら精神的に辛い気がする
- 彼女への負担があるのであればするか迷う
- 染色体リスクがわかった時に堕胎するか否かなどで迷う可能性がある。 また、パートナーとの意見の相違により不仲になる可能性もあるため
- 流産のリスクがあるため
- 値段や安全性も心配
- 高年齢での妊娠だとリスクが上がるので出生前診断を受けるか提案されたら迷うと思います
- 結果が分かって安心することもあるが、余計に不安になったり産むことを躊躇するかもしれないので
- 本当に行っていいのか、倫理的なことで少し考えられるからです
- 受けたい気持ちはないことはないが、結果次第でどうするか決められるかわからないし、きちんとしたカウンセリングを受けられるかも不安だから
- NIPTを受けたい気がするが、自分の倫理観の欠如に感じ迷うと思うから
- 身内に何らかの疾患を持つ人がいたら受けるかもしれないがそうでないのであれば、受けなくても健康な子供が生まれると思ったから
- 検査自体が比較的高価である
- お腹の子に染色体疾患があれば育てていく自信がなかったので受けたいと思っていましたが、周囲に反対され、迷っているうちにうやむやになってしまいました
- まだ年齢が若く、勧められることはないが、年齢が若いからと言ってリスクが0になるわけではないため、受けるか迷うと思います
NIPTはいのちの選択に関わる検査です。そのため受けるかどうか悩む人も多いです。
悩んでいる人ほど、遺伝カウンセリングで専門家から正しい知識と夫婦の選択肢の相談をして欲しいと思います。
今回のアンケートでも誤った知識もあったのでそれは下記で訂正させてください。
- 彼女(妊婦への負担)>NIPTの妊婦さんの負担は採血時の痛みと金銭的負担です
- 流産のリスク>NIPTは採血だけなので流産リスクは100%ありません
- 安全性の心配>NIPTは99.9999%の精度です。基本的に13,18,21トリソミーに関しては認可施設も無認可施設も検査精度は変わらないです他の疾患に関しては一部のクリニックでは検査精度も開示しています
- 受けなくても健康な子が生まれる>約4%の子が先天性疾患で生まれてきます。また、ダウン症候群であっても妊娠中に見つからないことは珍しくありません
- 倫理観の欠如に感じて迷う/周囲に反対されるから>ぜひ遺伝カウンセリングを受けてほしいです!
NIPT検査を受ける意思決定にパートナーが影響するか
もともとNIPTを受けたい人は40%だったのに対して、パートナーが受けたいと言った場合に受けると意見を変える人が20%も増えました。反対に、パートナーが受けたくないと言ったら、46%の人が受けないに意見を変えました。
NIPTを受けるかどうかの意思決定にパートナーの影響がいかに大きいかがわかりますね。夫やパートナーの性格をよく知っている人は、相手がNIPT検査に肯定的なのか否定的なのかなんとなくわかりませんか?そして自分の意思と反対だった場合に相談できますか。
遺伝カウセリングで「妻がやりたいというなら...」という夫のセリフをよく聞きます。夫が検査に否定的でないならそれでもいいのかなと思います。(何かあったときに妻に責任をとらせるような言い方だなーと心の中でよく思っていますが)
パートナーに相談しにくい方はぜひカウンセリングの専門家である遺伝カウンセラーのいるクリニックで相談してください。夫婦で病院に行きにくい人は、ラジュボークリニックやDNA先端医療株式会社、平石クリニックなど電話で遺伝カウンセラーの無料カウンセリングを受けられる施設もあります。
1人で悩むと妊娠は10カ月もあるので長いです。辛いです。ぜひ専門家に相談してください。その結果「受けない」選択をしたなら前向きな選択になると思います。
NIPTで何の検査をするか
NIPTは認可施設では13,18,21トリソミー(基本検査)の3つの病気のみ調べることができます。学会のルールに縛られず自由にできる無認可施設では性別やすべての染色体異常まで調べることができます。
私は認可施設でNIPTカウンセリングを行なっているときに「性別わかりますか?」とよく聞かれました。基本検査以外を調べたい人は無認可施設をおすすめします。アンケート結果で意外だったのが性別を希望する人はそこまで多くなく、すべての染色体を知りたい人がダントツに多いという結果です。無認可施設はどこでもすべての染色体の異常を調べてくれます。
検査項目が多いほど安心できる人はミネルバクリニックがおすすめです。ミネルバクリニックは遺伝子変化までわかる珍しいクリニックで、院長が女性の遺伝専門医で安心です。
NIPTクリニック・病院を選ぶ基準
NIPTが受けられるクリニックや病院は年々増加しています。検査を希望する人が何を基準に施設選びをしているかアンケートした結果、1位が認可施設であることでした。認可施設は学会の規定を満たしていると証明された病院なため信頼感・安心感が高いからですね。
ただし、NIPT検査で希望する人の70%以上の人が13,18,21トリソミー(基本検査)だけではなく、すべての染色体異常を調べたいと思っているという結果を踏まえると、「認可施設では基本検査以外にできないことを知らない」、もしくは「基本検査だけでよいから安心感をとりたい」と思っているのだと考えられます。
グラフの赤色は認可施設だけが叶えられる項目、青い色は無認可施設が叶えられる項目、緑はどちらでも叶えられる項目です。検査精度に関しては基本検査に関しては認可施設も無認可施設も同程度です。他の検査項目に関してはデータが少ないので一概にはいえません。口コミに関しては認可施設はほとんどNIPTの情報を開示していないので個人で探すのは難しいです(料金すら不明な病院が多かったです)。
「認可施設は学会の規定に沿っていて主治医もすすめているから安心だろう、検査項目も基本検査で十分」という人は認可施設がおすすめですが、「基本検査以外も知りたい、料金が安い方がよい、来院回数は少なく夫がいなくてもよく診療時間も自由がきく」と希望が多い人は無認可施設が選択肢になります。
お住まいの都道府県のNIPT病院がすぐ比較できる記事はこちら
NIPT意識調査のまとめ
安心につながる人にとってNIPTはメリットがある検査です。ただし、いのちに関わる検査なためパートナーと事前によく相談して検査を受けることをおすすめします。相談しにくく遺伝は難しい分野なため遺伝カウンセラーや遺伝専門医など遺伝に関する専門家がいるクリニック・病院でぜひ遺伝カウンセリングを受けてもらいたいなと思います。