1. はじめに
クローン病の患者さんにとって、妊娠は特別な時期であり、同時に多くの疑問や不安を伴います。
一般的にクローン病は妊娠や出産に大きな問題を引き起こすことは少ないとされていますが、妊娠中の病状の管理や薬物療法の調整が必要になる場合があります(*1,2)。
この記事ではクローン病の患者さんが妊娠中に直面する可能性のある課題に焦点を当て、基本的な知識と理解を深めることを目指します。
*1: mochida.co.jp - Chapter 5 妊娠・出産のこと
2. クローン病とは?
クローン病は、口腔から肛門までの全消化管のどの部分にも炎症を引き起こす可能性のある慢性疾患です。
この病気は潰瘍大腸炎とともに炎症性腸疾患というカテゴリーに分類され、特に小腸と大腸に影響を与えることが多いです。
主な症状には、下痢、腹痛、肛門の痛みや膿瘍などがあり、診断は症状、内視鏡検査、消化管造影検査、CT検査などによって行われます。
患者によって症状の重さは異なり、また炎症の存在や出血による貧血、低栄養状態などの合併症も見られることがあります(*3,4)。
クローン病の原因は完全には明らかになっておらず、遺伝的要因や環境因子が関係していると考えられています。
*3: nanbyou.or.jp - クローン病(指定難病96)
*4: kompas.hosp.keio.ac.jp - クローン病 - 慶應義塾大学病院 KOMPAS
3. クローン病と妊娠
クローン病が落ち着いた状態(寛解期)であれば、クローン病というだけで妊娠率が下がることはありません。
しかし病気が落ち着いていない状態(活動期)にあると、妊娠しにくくなる可能性が指摘されています。
また手術を受けた患者さんでは、手術による卵巣の癒着などにより、妊娠率が低下する可能性も指摘されています。
ただしそのような場合でも体外受精などによって十分に妊娠が可能です(*5)。
妊娠中の女性ではクローン病の症状の変化が見られることがあるため、妊娠中は病状の維持に努め、再燃した場合には非妊娠時と同様に治療が行われます(*2)。
*5: ibdjapan.org - 知っておきたい 基礎知識 Q&A
4. 妊娠中のクローン病管理
妊娠中のクローン病管理は、妊娠への影響を最小限に抑えるために重要です。
クローン病が活動期にある状態で妊娠すると、母体と胎児に様々なリスクが生じる可能性があります。
例えば、炎症が強い場合には胎児の成長に影響を与えたり、早産のリスクが高まることがあります。
疾患活動性のコントロールはこれらのリスクを減らすために不可欠です。
妊娠中は使用可能な薬剤で病状がコントロールされ、寛解状態を維持することが望ましいです(*6)。
これには適切な薬物治療の継続だけでなく、生活習慣の調整や栄養管理も含まれます。
定期的な病状確認と医療スタッフとの協力は、妊娠中のクローン病の効果的な管理には欠かせません。
これには定期的な診察、検査、症状のモニタリングが含まれ、必要に応じて治療の調整が行われます。
医師、看護師、栄養士などの医療スタッフとの緊密な連携により、母体と胎児の健康を最適に保つことが可能になります(*7)。
*6: ra-ibd-sle-pregnancy.org - 炎症性腸疾患(IBD)患者の妊娠容認基準はあるか?
*7: jstage.jst.go.jp - 看護の視点で捉える炎症性腸疾患活動性評価項目の検討
5. 食事とライフスタイルの調整
妊娠中の栄養管理は母体と胎児の健康にとって非常に重要です。
特に重視すべき栄養素として、鉄分、葉酸、カルシウムなどが挙げられます。
これらの栄養素は胎児の正常な発育を支えるために必要であり、バランスのとれた食事を通じて摂取することが推奨されます(*8,9)。
ストレス管理と十分な休息も妊娠中には重要です。
妊娠中は体に多くの変化が起こるため、ストレスの軽減と適切な休息を取ることで、母体の健康維持と胎児の健全な成長を支えます(*8)。
適切な運動も妊娠中の重要な側面です。
適度な運動は体力維持、ストレス軽減、妊娠に伴う不快感の緩和に役立ちます。
ただし、妊娠に関連するリスク(例えば切迫早産)がある場合は、医師のアドバイスに従って安静に過ごすことが必要です(*10)。
*8: sancha-art.com - 妊娠中に避けるべきサプリメント:注意点と代替方法
*9: meg-snow.com - プルーンFe 1日分の鉄分 ヨーグルト
*10: hiro-clinic.or.jp - 妊娠安定期はいつから?安定期の過ごし方や注意点などを …
6. 薬物療法と妊娠
クローン病の治療薬と妊娠の管理において、安全な薬物治療の選択は極めて重要です。
クローン病治療に使われる薬の多くは胎児への安全性が高いとされていますが、一部の薬剤は妊娠中に変更する必要があるため、主治医との相談が必要です(*11)。
安全な妊娠と出産には、母体の健康状態を維持することが最優先です。
これには医師と綿密に相談しながら、適切な薬物治療を続けることが含まれます。
特にクローン病治療に用いられる5-ASA製剤(ペンタサ®)は、妊娠中も安全と考えられています。
副腎皮質ステロイドに関する古い研究では口蓋裂の増加が指摘されていましたが、新しい大規模な研究ではこれを支持するデータは見つかっていません。生物学的製剤(レミケード®、ヒュミラ®、エンタイビオ®、ステラーラ®など)は妊娠後期に胎児へ移行するため、赤ちゃんのワクチン接種時に注意が必要です。
免疫調節薬(アザニン®、イムラン®など)は妊娠経過や赤ちゃんに大きな影響を与える報告はありません。
ただしJAK阻害剤(リンヴォック®)は動物試験で奇形のリスクがあり、妊娠中の使用は推奨されていません。
全体的に、ほとんどの薬剤は妊娠中の治療において流産や早産、胎児奇形のリスクを増加させないとされており、病気の悪化を避けるためには治療の継続が重要です(*12)。
特に自己判断での薬剤の中止は、クローン病の再燃ひいては妊娠経過に悪影響を及ぼすため、絶対に止めて下さい。
薬剤を中止したい場合は事前に主治医に相談して下さい。
*11: kitasato-ibd.com - 炎症性腸疾患先進治療センター(IBDセンター)|北里大学 …
*12: ibdjapan.org - 知っておきたい 基礎知識 Q&A
7. 出産とクローン病
クローン病患者の出産方法は個々の病状により異なります。
多くの場合は自然分娩が可能ですが、肛門病変がある場合や手術を受けた後などは特別な配慮が必要な場合もあります(*13)。
出産後のクローン病の管理には、栄養管理と病状の活動性コントロールに注意が必要であり(*14)、医師や栄養士との連携を通じて、健康的な食事計画の確立と病状のモニタリングが重要です。
また産後は特に疲労やストレスが増えるため、これらを適切に管理することがクローン病の再燃を防ぐうえで重要です。
*13: oishi-kenko.com - 炎症性腸疾患(IBD)の方の妊娠、出産、産後で気を …
*14: jstage.jst.go.jp - 炎症性腸疾患患者における出産例の検討
8. まとめと激励のメッセージ
クローン病を抱えながらの妊娠は特別な配慮が必要ですが、適切な管理とケアにより多くの場合は安全に妊娠を継続できます。
重要なのは医師との密接な連携です。
妊娠中は薬剤の種類や量の調整が必要になることがあり、これには医師の専門的アドバイスが欠かせません。
妊娠中のクローン病患者の皆さんへ:あなたは一人ではありません。
病気と向き合う中での不安や疑問は、医師や医療スタッフと共有し、適切なケアを受けながら、この特別な期間を乗り越えましょう。
健康な妊娠と出産のために、自身の体調を優先し、必要なサポートを積極的に求めることが大切です。
この記事を書いた人
- 消化器専門医,消化器内視鏡専門医,総合内科専門医
- ハシビローの消化器ブログを運営中